賃貸物件から引っ越す場合、管理会社による退去立会いがおこなわれます。これは、退去時に部屋の状態を確認し、必要な修繕の範囲を判断するための重要なプロセスです。退去立会いで何を確認されるか事前に把握しておくことで、修繕費用に差が出る場合もあります。
本記事では賃貸物件の退去立会いについて解説します。日程の決め方から、引越し当日の流れ、どのようなポイントがチェックされるかまで詳しくまとめています。これから引越しを控えている方は必見です。
目次
賃貸物件の退去立会いについて

管理会社は、退去立会いによって物件の状態を確認し、必要な修繕の範囲や費用負担を判断します。
引越し当日に行われるのが一般的ですが、荷物の搬出入でバタバタする場合は、別日に設定することも可能です。
借主側は入居者本人、貸主側は管理会社の担当者が立ち会うケースが多いです。双方で部屋の状態を確認しながら、たとえば壁の汚れが入居前からあったものか、入居中に発生したものかなどを協議します。
この確認は、修繕の範囲や費用負担について合意を得ることが目的であり、後々のトラブルを防ぐためにも非常に重要です。
その後におこなわれる修繕工事は「原状回復」と呼ばれますが、これは単に「借りた当時の状態に戻すこと」ではありません。
国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、原状回復とは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。
つまり、入居当初からの傷や汚れ、自然な経年劣化などは貸主の負担で修繕されるべきということです。賃借人が負担するのは、故意や過失による損傷、注意義務違反、または通常の使用を超えるような使い方によって生じた損耗・毀損に限られます。
立会いでは、こうした判断が現場で行われるため、事前に流れや確認ポイントを把握しておくことが、余計な費用負担を避けるためにも大切です。
賃貸物件の退去立会い!日程の決め方

引越しの日時が決まったら、できるだけ早めに管理会社へ連絡し、立会いの日程を調整しましょう。連絡が直前になると、担当者のスケジュールが合わず希望日に対応できないこともあるため、遅くとも2週間前には希望日時を打診しておくのが安心です。
立会いは、荷物をすべて運び出した後から解約日までの間で設定するのが一般的ですが、可能であれば引越し当日に立会いを依頼すると、旧居に戻る手間が省けて効率的です。
また、立会い日までに電気・ガス・水道などのライフラインの停止手続きを済ませておく必要があります。ただし立会い当日には、電気・ガス・水道の動作確認もあるため、立会い時までは使用できる状態にしておきます。
賃貸物件の退去立会い時間はどれぐらいかかるの?

通常、20分〜40分程度で完了します。ただし、物件が広い場合や確認事項が多い場合は、1時間ほどかかることも少なくありません。
基本的には短時間で進行しますが、修繕範囲や費用負担の話し合いで意見が食い違うと、立会いが長引くこともあります。
このように短時間で終わるケースが多いものの、状況によって所要時間が大きく変動する可能性があるため、注意が必要です。
特に一人で近隣エリアに引っ越す場合、立会いを引越し当日に設定すると、新居での荷物受け取りに間に合わないリスクがあります。
万が一の場合を想定して、引越しの翌日に設定したほうが、余裕をもって行動できるでしょう。
賃貸物件の退去立会い!どんな流れなのか紹介

立会いの流れは、以下のとおりです。
- 引っ越し・荷物を運び出す
- 立会い担当者が物件に訪問
- 立会い担当者と部屋を確認
- 退去立会いに関する書類にサイン
- 鍵を返却する
引っ越し・荷物を運び出す
立会いの前には、部屋の荷物をすべて運び出し、何もない状態にしておくことが基本です。これは、管理会社が壁や床の傷・汚れなどを隅々まで確認できるようにするためです。
家具や家電を動かすと、普段は見えない汚れやホコリが現れることも。そのままにしておくと、クリーニング費用や原状回復費用が高くなる可能性があります。
そのため、引越し前から少しずつ掃除を始めておくのが理想的です。荷物の運び出しと並行して、掃除機や雑巾で掃除をおこない、できる限りきれいな状態で臨みましょう。
立会い担当者が物件に訪問
事前に約束した時間になると、担当者が物件に訪問し、立会いが始まります。遅れないよう、時間前には部屋で待機しておくのが安心です。
引越し当日に予定している場合は、立会い開始までに荷物の搬出を完了しておく必要があります。部屋が空の状態でないと、確認作業が進められないため、担当者を待たせてしまうことになりかねません。
立会い当日は、以下の書類やアイテムをあらかじめ手元に準備しておきましょう
- 賃貸借契約書
- 家の鍵
- 入居時に受け取った書類一式
- 入居時に撮影した室内写真
- 敷金返還先の銀行口座情報
このほかにも、印鑑や身分証明書などを念のため持参しておくと安心です。
立会い担当者と部屋を確認
立会いが始まると、担当者と一緒に部屋の中を見て回り、壁や床、設備などの状態を細かくチェックしていきます。電気・ガス・水道の動作確認もおこなわれます。
入居者は担当者の案内に沿って同行し、傷や汚れ、破損箇所について質問や指摘があれば、その場で一つずつ丁寧に回答します。
特に傷や破損については、それが入居前からあったものなのか、入居中に発生したものなのかを明確に伝えることが重要です。
入居時に撮影しておいた室内写真があれば、証拠として提示することで、説明に説得力が増します。
もし自身で傷をつけた記憶がある場合は、どのような使い方をしていたか、どのような状況で傷ができたのかを具体的に伝えると、費用負担の判断にも役立ちます。
退去立会いに関する書類にサイン
室内確認がすべて完了したら、退去立会いに関する書類にサインをします。
この書類には、立会いで確認された傷や破損の状況と、それに対する修繕内容、そして修繕費用の負担者が記載されています。
サインする前に、書類の内容が立会い時の話し合いと一致しているかを必ず確認しましょう。
確認を怠って署名してしまうと、後日話し合いとは異なる内容で費用請求が発生し、トラブルにつながる可能性があります。
特に、費用負担の有無や修繕の範囲については、口頭でのやり取りだけではなく、書面でも明確に記されているかチェックすることが重要です。
納得できない点があれば、その場で担当者に確認し、必要に応じて修正を依頼しましょう。
鍵を返却する
立会いがすべて完了したら、部屋の鍵を返却します。これにより、正式に物件の引き渡しが完了し、賃貸借契約も終了となります。
鍵の返却は、玄関の鍵だけでなく、ポストや物置、セキュリティキーなども含めて、受け取ったすべての鍵が対象です。
万が一、鍵を紛失している場合は、事前に管理会社へ連絡し、対応方法を確認しておきましょう。場合によっては、鍵の再発行費用が発生することもあります。
鍵の返却後は、敷金の精算や修繕費の請求がおこなわれます。敷金の返還時期は、退去立会いから1カ月くらいが目安です。敷金から修繕費用が差し引かれた残額が、指定した銀行口座に振り込まれます。
管理会社が確認すること

退去立会いでは、管理会社が室内の状態を細かくチェックします。どのような点が確認されるかを事前に把握しておくことで、修繕費用を抑え、敷金を多く取り戻せる可能性が高まります。
主なチェックポイントは、以下のとおりです。
- 部屋のニオイ
- 壁紙(クロス)の状態
- 床・畳の状態
- 水回りの状態
- 網戸の状態
- エアコンやウォシュレット・換気扇の状態
- 照明器具の状態
- 電気、ガス、水道の停止手続き
それぞれのチェックポイントを詳しく見ていきましょう。
部屋のニオイ
タバコやペットなどのニオイは、退去時に指摘されやすい項目です。
長く住んでいると自分では気づきにくくなりますが、外出後に部屋に戻った瞬間のニオイを意識したり、第三者に確認してもらったりすると、ニオイの有無を客観的に把握できます。
ニオイが気になる場合は、日頃からこまめな換気を心がけることが基本です。加えて、カーテンや布製品の洗濯、消臭スプレーを使った掃除など、消臭対策を徹底しましょう。
ただし、ニオイが壁紙や建材に染みついてしまっている場合は、簡単な掃除では除去できず、専門的なクリーニングや居室全体の壁紙貼り替えが必要になることがあります。
壁紙(クロス)の状態
壁紙は、退去時に管理会社が特に細かくチェックする箇所のひとつです。壁紙の破れや剥がれ、喫煙による変色などがあると、修繕費を請求される可能性があります。
退去前に壁紙の状態を確認し、必要に応じて証拠を準備しておくことが、トラブルを防ぐうえで大切です。普段の生活では気づきにくいですが、家具の裏や照明の周辺、コンセントまわりなども忘れずに確認しましょう。自然光の下で全体を見渡し、スマホのライトを使って暗い部分もチェックすると、見落としを防げます。
床・畳の状態
床や畳は、引越しで家具や荷物を運び出した後に、初めて見える傷や汚れが多い場所です。
飲み物をこぼしたシミやペットによる汚れなどは、借主の過失と判断され、修繕費を請求される可能性があります。
一方で、家具を置いたことによるへこみや、日焼けによる変色などの自然な経年劣化については、借主の責任にならないケースが一般的です。ただし、判断は物件ごとの契約内容にも左右されるため、契約書の特記事項を事前に確認しておきましょう。
特に和室のある物件では、契約書の特記事項に「畳の張替えは借主負担」と明記されている場合もあります。退去前に契約書を見直し、特記事項が記載されていないかをチェックしておくことが肝心です。
水回りの状態
キッチン、浴室、洗面台、トイレなどの水回りは、使用頻度が高く汚れが蓄積しやすい場所のため、退去時に費用請求される可能性があるポイントです。
たとえばカビや水垢は、借主が適切な手入れを怠ったと判断されることがあり、原状回復費用の対象になる場合があります。また、洗面台のひび割れや破損なども、通常の使用を超える損耗とみなされ、費用負担を求められるケースがあります。
こうしたトラブルを避けるためには、日頃からの清掃と丁寧な使用が不可欠です。
網戸の状態
網戸は普段あまり意識しない部分ですが、破れやたるみがあると修繕費が発生することもあります。特に、子どもやペットによる破損は借主の過失とみなされることが多く、原状回復義務の対象になるケースが一般的です。
また、網戸の状態だけでなく、開閉のスムーズさやサッシのレールに歪みがないかもチェックされるポイントです。
エアコンやウォシュレット・換気扇の状態
退去立会いでは、エアコン・ウォシュレット・換気扇などの備え付け設備の動作確認もおこないます。これらの設備が故障している場合、借主の使用状況に原因があると判断されれば、修繕費を請求される可能性があります。
特に、フィルターの汚れやホコリの蓄積が原因で故障したとみなされるケースでは、借主の過失が指摘され、原状回復費用を請求されることも。退去前には設備の清掃を丁寧におこなうことが重要です。
ただし耐用年数を超えて使用している設備については、経年劣化と判断され、原状回復義務が生じない可能性もあります。
照明器具の状態
照明器具は、もともと物件に備え付けられている場合と、借主が自身で設置した場合があります。借主が設置した照明器具については、退去時に撤去するのが原則です。
そのまま残していくと、残置物として扱われ、管理会社の了承がない場合は処分費用を請求される可能性があります。
照明器具を残したい場合は、事前に管理会社へ相談し、了承を得ておくことが重要です。
電気、ガス、水道の停止手続き
退去立会いでは、電気・ガス・水道が正常に動作しているかどうかも確認されます。
また、ライフラインの利用停止手続きが済んでいるかどうかもチェックされるため、退去日までに各社への連絡を済ませておくことが重要です。
手続きが未完了のまま退去すると、退去後も基本料金が発生し、思わぬ費用負担につながることがあります。
まとめ
退去立会いは、管理会社と入居者が立ち会って、退去時の部屋の状態を確認し、修繕範囲と費用負担について双方ですり合わせることです。
後々のトラブルを防ぐためにも、どの箇所がチェックされるのかを事前に把握し、必要な掃除や確認を済ませておくことが大切です。また、入居時の写真や記録があるかどうか、掃除が行き届いているかどうかによって、修繕費の負担額が大きく変わる可能性があります。
退去直前に慌てることのないよう、余裕を持って準備を進めておくことが、敷金を守る第一歩です。



























