「埋蔵文化財包蔵地」という言葉を聞いたことがありますか?これから家を建てる場所がこの土地に該当する場合、工事に大きな影響が生じる可能性があるため、ぜひ押さえておきたいキーワードです。
この記事では、埋蔵文化財包蔵地とはどのような土地か整理したうえで、家を建てる場合のデメリットや売却する方法について解説します。これから家を建てようとしている方は必見です。
そもそも埋蔵文化財包蔵地とは?

貝塚・古墳・住居跡などの遺跡や、石器・土器などの遺物が土の中に埋もれている土地を指します。文化財保護法によって定められており、開発によって貴重な文化財が失われるのを防ぐための仕組みです。
既に周知されているものは「周知の埋蔵文化財包蔵地」と呼ばれ、文化庁によるとその数は全国で約46万箇所にものぼります。そして発掘調査の件数は、毎年およそ9千程度。この数を見てもわかるように「自分の土地に遺跡が埋まっていた」というケースは決して珍しいことではありません。
たとえば家の基礎工事で土地を掘削していたら、土器が出てきたケース。この場合は新たに発見した包蔵地である可能性が高いため、自治体に確認して必要な手続きを踏むことになります。
もし適切な手続きを経ずに無断で発掘してしまうと、文化財保護法に違反する恐れがあるため、くれぐれも注意しましょう。無届発掘には罰則が設けられており、5万円以下の過料が科せられます。
埋蔵文化財包蔵地に建築!家を建てることは可能?メリットなし?

家を建てることは可能ですが、着工前に現地の発掘調査がおこなわれるため、工事スケジュールが後ろ倒しになる恐れがあります。
最初の手続きとして、文化庁長官への事前の届け出が義務付けられています。これは周知の包蔵地はもちろん、新たに判明した包蔵地も同様です。
届け出内容を踏まえ、教育委員会がその土地での発掘調査をするかどうかの判断をします。過去に調査が実施されていない土地であれば、まず試掘調査をおこなう流れです。
試掘の結果、遺跡・遺物が見つからなければ予定通り工事を進めることが可能です。一方で何か発見された場合は、盛土などの方法で文化財を保護できないか協議することになります。
保存が不可能であれば、遺跡の記録を残すための本発掘調査が始まります。現状を変更することは許されないため、工事が2カ月〜1年もの間ストップしてしまうことも。さらに、本発掘調査にかかる費用は、開発事業者が負担するのが一般的です。
このように包蔵地に家を建てることは、所有者にとって負担が大きく、ほとんどメリットがありません。
埋蔵文化財包蔵地!デメリットについて

包蔵地で家を建てる場合のデメリットは、以下のとおりです。
- 調査費の自己負担
- 工事着手が遅れる
- 固定資産税の問題
- 売却価格が下がる
それぞれのデメリットについて、詳しく見ていきましょう。
調査費の自己負担
本発掘調査にかかる費用は、基本的に開発者で負担する必要があります。「令和6年度 埋蔵文化財関係統計資料」によると、個人住宅を建てる前におこなわれた本発掘調査費の合計は、677件で7億4,251万円。つまり1件につき110万円程度かかる計算になり、金銭的な負担が非常に大きいことがわかります。
ただし、個人が家を建てる場合は、本発掘費の負担は求めないケースがほとんどです。代わりに、国庫補助など公費を使って費用が支払われます。
工事着手が遅れる
文化財が埋まっている場合は、事前の届け出や発掘調査が必要になり、その影響で工事着手が遅れる可能性があります。
まず事前の届け出に関しては、工事着手の日から60日前までにおこなわなければなりません。事前に該当することが分かっているのであれば、全体のスケジュールを見据えて届け出の準備ができます。しかし、新たに遺跡が出土した場合は、その時点で届け出をしなければならず、自治体の判断を待つ時間が発生します。
また、発掘調査が必要と判断された場合は、さらに工事着手が後ろ倒しになります。試掘期間は1日から1週間、本発掘期間は数週間から1年以上かかることも。家を建てたくても、調査のスケジュールを優先しなければならず、施主にとっては大きな負担になるでしょう。
固定資産税の問題
包蔵地に家を建てる場合、工期遅延によって、固定資産税の住宅用地特例を受けられず、税金の負担が増える可能性があります。
固定資産税の住宅用地特例は、住宅用地の固定資産税を減額する制度です。200㎡までの小規模住宅用地は課税標準が6分の1、200㎡を超える一般住宅用地は課税標準が3分の1に軽減されます。
ただし、本特例を受けられるのは1月1日時点で住宅が建っている土地です。そのため、更地の状態では適用を受けられません。更地の状態で土地を購入した場合や、家の建て替えのために古家を取り壊した場合は、注意が必要です。埋蔵文化財の発掘調査が長引き、翌年の1月1日時点で家が完成していなければ、通常の税率で固定資産税を支払うことになります。
売却価格が下がる
いざ売ろうとしても、買い手が見つかりづらいのが現実です。先述のとおり、家を建てる場合は、工期遅延や発掘費用の負担などのリスクがあり、買い手から敬遠されるためです。
さらに、買い手が住宅ローンの融資を受けられない可能性もあります。上記のような工事遅延リスクがあるため、金融機関は自治体からのお墨付きがもらえない限り、住宅ローン審査を通さないことが多いのです。住宅ローンを利用できなければ、買い手の金銭負担は大きくなる一方です。
買い手は、できるだけリスクが少ない土地を選ぶ傾向があります。相場どおりの価格では売るのは難しく、包蔵地であることを理由に値下げを求められるケースも少なくありません。
埋蔵文化財包蔵地を売却する方法

埋蔵文化財包蔵地で家を建てるのは、多くのデメリットがあります。そのため、売却する際は、後々トラブルにならないよう慎重な対応が必要です。
埋蔵文化財包蔵地をスムーズに売却する方法は、以下の3つです。
- 埋蔵文化財包蔵地かどうかを調べる
- 重要事項説明に入れ込む
- 買取業者へ相談
それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。
埋蔵文化財包蔵地かどうかを調べる
埋蔵文化財包蔵地かどうか定かではない場合、まずは自分で調べてみることが大切です。多くの自治体では、土木・建築工事を予定している方向けに、埋蔵文化財の照会を受け付けています。
照会方法は、自治体の窓口に直接行くか、ファックスなどの方法で対応可能です。自治体の回答は書面で発行されるため、記録として残すこともできます。照会の結果、埋蔵文化財包蔵地に該当しない場合は、買い手にとって大きな安心材料になるでしょう。
ただし、事前に調べていても、工事中に埋蔵文化財が発見されるケースもあります。この方法で100%保証できるとは言い切れませんが、売主として必要な手続きを踏み、責任を果たしたうえで売却に臨むことができます。
重要事項説明に入れ込む
売却する土地が埋蔵文化財包蔵地に該当する場合は、買主に対する丁寧な説明が必要です。口頭による説明だけでなく、重要事項説明にも記載し、認識の齟齬が起きないよう注意しましょう。
埋蔵文化財包蔵地である事実に加え、家を建てる際に必要な手続きまで説明するのが望ましいです。特に事前の届け出義務や工期遅延のリスクについては、買主も知っておきたいポイントのため、具体的に説明することが大切です。
もし埋蔵文化財包蔵地であることを隠して売却した場合は、契約不適合責任に基づき、買主から契約解除や損害賠償などを求められる可能性があります。たとえ売却に不利となる情報であっても、土地の状況を正直に伝えることが売主としての責任です。
買取業者へ相談
埋蔵文化財包蔵地を売りに出してもなかなか買い手がつかない場合は、買取業者に売却するという選択肢があります。買取業者は埋蔵文化財包蔵地など敬遠されがちな土地でも、一定の条件下で積極的に買い取ってくれるため、売却のハードルを一段下げることができます。
また、買取業者はプロの不動産会社であり、契約不適合責任が免除される点も大きなメリットです。売却後にトラブルが発生するリスクを軽減できるため、安心して売却することができます。
ただし、買取価格は仲介による売却価格の7〜8割程度が相場になります。できるだけ高く売りたいという方には向きませんが、一刻も早く土地を手放したい場合や煩雑な手続きから解放されたい場合は、有力な選択肢になるでしょう。
まとめ
埋蔵文化財包蔵地とは、歴史的な遺跡や遺物が土の中に埋もれている土地で、文化財保護法の保護対象になっています。
このような土地に家を建てる場合は、事前の届け出や発掘調査が必要になります。結果として工事着手が遅れるリスクがあるほか、発掘調査費の負担を求められたり、固定資産税の減額を受けられなかったりと、所有者に不利益が生じる可能性があります。
これらの背景から、埋蔵文化財包蔵地は売却時にも買い手から敬遠されがちです。スムーズに売却するためには、自治体の照会サービスにより埋蔵文化財包蔵地かどうかを明らかにし、該当する場合は重要事項説明に明記するなどして、買い手に丁寧に説明することが大切です。
早期売却を目指す場合は、買取業者への売却を検討するのも手です。ただし買取業者への売却は価格が安くなる傾向があります。それぞれの選択肢のスピードと価格のバランスを見極めて、納得いく売却方法を選ぶことが大切です。



























